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賃貸物件の修繕義務について
賃貸物件の修繕に関して、貸主と借主の責任範囲を明確にすることは非常に重要です。民法の606条1項では、「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う」と定められています。そのため、貸主は借主が快適に物件を使用できるよう、適切に修繕を行う必要があります。
貸主の修繕義務の範囲
貸主は、建物の屋根、壁、柱などの構造部分や、賃貸借契約で提供されている設備に関して修繕義務を負います。例えば、居住用マンションの場合、共用部の照明や郵便ポストなども対象となります。ただし、照明器具やカーテン、消耗品などは修繕義務の対象外です。また、修繕が必要かどうかは、使用収益に支障があるかや、費用の金額によって判断されます。
借主の故意・過失による破損の場合
借主の故意や過失によって設備が故障した場合、公平の観点から貸主は修繕義務を負いません。例えば、借主が誤って壁に大きな穴を開けた場合、その修繕費用は借主の負担となります。
貸主が修繕義務を果たさない場合
貸主が適切な修繕を行わない場合、借主は次のような対応を取ることができます。
- 修繕が行われない部分の賃料を減額できる(民法611条1項)
- 貸主に修繕を求め、それでも対応しない場合には借主が修繕を行う(民法607条の2)
- 修繕が行われないことを理由に賃貸借契約を解除することも可能
貸主に対応を求めても対応してくれず、修繕した場合、費用は貸主に請求できます
設備の修繕義務について
設備の修繕義務については、賃貸借契約に含まれているかどうかが重要です。例えば、エアコンや給湯器が「設備」として契約に含まれている場合、貸主が修繕義務を負います。しかし、賃貸契約で「設備の修繕は借主負担」と特約で明記されている場合は、借主が修繕しなければなりません。
実際の裁判例では、「契約時に設備として記載されているか」「借主の使用目的に照らして必要な設備か」が判断基準となることが多いです。例えば、店舗用賃貸物件でエアコンが必要不可欠な設備とされている場合、貸主に修繕義務があると判断される可能性が高いです。
- 全部の設備を借主負担にで修理する特約は認められるの?
-
この特約が認められるのは電球などの大きな費用にならない消耗品程度だけです。「特約が付いてるからエアコンは借主負担です」というのは認められません。
原状回復の負担区分(国土交通省ガイドライン参考)
国土交通省の原状回復にかかるガイドラインを参考に具体的な負担区分をまとめました。
部位 | 項目 | 内容 | 負担者 |
---|---|---|---|
床 | 畳の裏返し・表替え | 次の入居者確保のため | 貸主 |
畳の変色 | 日照・雨漏りによるものは借主に責任なし | 貸主 | |
フローリングのワックスがけ | 物件の維持管理目的のため | 貸主 | |
フローリングの色落ち | 日照・雨漏りによるもの借主に責任なし | 貸主 | |
フローリングの変色 | 借主の不注意による雨吹き込み | 借主 | |
家具の設置跡・へこみ | 通常の使用によるもの | 貸主 | |
カーペットのシミ・カビ | 飲み物をこぼした後の手入れ不足 | 借主 | |
冷蔵庫下のサビ跡 | 放置して床に汚損した場合 | 借主 | |
引っ越し作業のひっかき傷 | 過失による損傷 | 借主 | |
壁・天井 | 壁紙の変色 | 日照によるもの借主に責任なし | 貸主 |
壁の電気ヤケ | テレビや冷蔵庫の使用によるもの | 貸主 | |
ポスター・絵画の跡 | 日照による変色 | 貸主 | |
画鋲・ピンの穴 | 下地ボード張替え不要なもの | 貸主 | |
くぎ・ネジ穴 | 重量物設置でボード張替え必要なもの | 借主 | |
タバコのヤニ | 喫煙による変色・臭い | 借主 | |
エアコンの水漏れ(借主の所有のエアコン) | 借主所有のエアコンのため | 借主 | |
結露放置によるカビ・シミ | 通知・手入れを怠った場合(結露などは建物の構造上が原因のことが多いため) | 借主 | |
台所の油汚れ | 手入れ不足 | 借主 | |
建具・柱 | 地震で割れたガラス | 自然災害 | 貸主 |
網入りガラスの自然亀裂 | 構造上の問題 | 貸主 | |
ペットによる柱の傷・臭い | ペットの飼育はいまだ一般的でないため(飼わない人も多数いるため) | 借主 | |
設備・鍵 | 設備機器の故障 | 経年劣化のため | 貸主 |
浴槽・風呂釜の交換 | 次の入居者確保のため | 貸主 | |
日常の不適切な使用による設備の破損 | 手入れ不足 | 借主 | |
鍵の交換 | 紛失・破損なしの場合 | 貸主 | |
鍵の交換 | 紛失・破損・不適切使用の場合 | 借主 | |
水回り | 台所・トイレの消毒 | 消毒に関しては次の入居者確保のため | 貸主 |
換気扇・ガスコンロ周りの油汚れ | 手入れ不足 | 借主 | |
風呂・トイレ・洗面台の水垢・カビ | 手入れ不足 | 借主 | |
居室全体 | ハウスクリーニング(専門業者) | 通常の清掃を行っている場合 | 貸主 |
出展 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)
https://www.mlit.go.jp/common/000991391.pdf
電気水道ガスなど特に重要な設備が故障した場合は賃料の減額請求もできる!
電気や水道などのライフラインが故障して使えなくなった場合は、免責日数を除いた日数分だけ割合に応じて賃料の減額もできます。
賃貸の修繕義務に関する賃料減額基準
- 貸室・設備に不具合が発生
↓ - A群に該当するか確認
群 | 状況 | 賃料減額割合(日割り計算) | 免責日数 |
---|---|---|---|
A | 電気が使えない | 40% | 2日 |
A | ガスが使えない | 10% | 3日 |
A | 水が使えない | 30% | 2日 |
- A群のいずれにも該当しない場合
↓
群 | 状況 | 賃料減額割合(日割り計算) | 免責日数 |
---|---|---|---|
B | トイレが使えない | 20% | 1日 |
B | 風呂が使えない | 10% | 3日 |
B | エアコンが作動しない | 10% ※1 | 3日 |
B | テレビ等通信設備が使えない | 10% | 3日 |
B | 雨漏りによる利用制限 | 5%~50% | 7日 |
出展 公益財団法人日本賃貸住宅管理協会
https://www.jpm.jp/wp-content/uploads/2024/10/031818.pdf
近年では夏季の期間はエアコンが必須と考えられており、エアコンなどが故障した場合にも適用できます。ここで書かれた電気水道ガスだけでなく、賃貸の設備の故障で不利益を被っている場合は請求できます。
まとめ
賃貸物件の修繕義務について、貸主と借主の責任を理解しておくことが重要です。
- 貸主は建物の主要構造部分や提供設備の修繕義務を負う
- 借主の過失による損傷は借主が修繕義務を負う
- 貸主が修繕を行わない場合、賃料の減額や契約解除が可能
- 設備の修繕義務は契約内容に左右される
修繕義務に関して不明な点がある場合は、契約書の内容を確認し、必要に応じて国民生活センターに相談することをおすすめします。
国民生活センター
https://www.kokusen.go.jp/map/
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